トウカイコモウセンとは何者か?
こんにちは くりたです
トウカイコモウセンとは何者か?
この問いについて考えていたら、あまりの難解さゆえに深みにハマってしまい、意識は散漫になり、食事も喉を通らず、大学に通うどころでもなく、ブログの更新も1年近く空いてしまいました。本当です。
しかしこの難解さは先日トウカイの先行研究をググることで幾らか解消されたので、今回は上の問いに答えるべく今わかってることを忘備録として書いていきたいと思います(記) 結論から言うと、トウカイコモウセンゴケは単一起源ではなく、複数回の交雑によって独立に生まれたとする説が有力だそうです。雑草扱いされることも多い本種ですが、面白い側面もあるようです
今回参考にしたのは、中野真理子さん(現石川県立自然資料館)や早川宗志さん(現ふじのくに地球環境史ミュージアム)らによるトウカイモウセンゴケの生態や遺伝的特徴を親種と比較した一連の研究です。野外観察や栽培実験、遺伝解析で得られたヒントをもとに、トウカイコモウセンゴケの起源や、親種と共存するための条件などについて考察しています。
まずはトウカイコモウセンゴケの起源について
この種はD. tokaiensis subsp. tokaiensisという学名がついており、コモウセンゴケとモウセンゴケの雑種起源の種であることが知られています。
普通にこの2種が交雑すると、生殖能力のない個体が生まれるのですが、まれにその個体が倍数化(遺伝子のセットが倍になること)を起こし、トウカイコモウセンゴケが生まれるというわけですね。ちなみに生殖能力のない個体はヒュウガモウセンゴケと呼ばれていてレアらしいです。
(倍数化について、遺伝子の量が倍になると色々やばそうですが、植物では普通に起こるみたいです。今回の例のように倍数化によって雑種が生殖能力を得ることは頻繁にあるみたいで、例えば食用の小麦は何種類かの親種が交雑、倍数化してできた品種です)
またトウカイコモウセンの種子親は必ずコモウセンであることが知られているようですが、なぜそうなるんでしょうかね?理由はよくわかっていないみたいです(引用1)
トウカイがコモウセンとモウセンゴケの雑種起源であることは分かったので、次に親の2種とトウカイの特徴を比較していきます。ざっくり言うとコモウセンはやや暖かいところに生えて、モウセンゴケはやや寒いところにも生えるので、それによって分布や生態に違いが出てきます。そしてトウカイは両種の中間的~コモウセン寄りの特徴になることが多いです。
分布について
コモウセンゴケ(D. spathulata)は静岡以西に広く分布し、関東、東北の太平洋側にも分布しているのが分かります。あとこの図にはないけど沖縄にもいます
南方系の由来なので、冬芽を作らなかったり、開花時期などにも特徴があります(この話はまた後で出てきます)。
少し湿った程度の斜面や平地に生えていることが多く、モウセンゴケよりもやや乾いた場所に好んで生えるイメージです
それに対し、図で本州全体を囲むように分布しているのがモウセンゴケ(D. rotundifolia)です。青森や北海道など、寒さの厳しい場所にも生えているのが分かります。北方系の種なので、南方系のコモウセンとは違った生存戦略をとっています。
コモウセンに比べるとジメジメした場所が好きなイメージで、草の根元や林床など、やや暗い場所にも生えてるのを見ます。
トウカイの分布ですが、2種の分布が重なるエリアに点在していることがわかります。
連続的というよりはバラバラに散らばって分布している感じですかね、、分布する場所にはかたまって生えているのだと思います。興味深いことに、富山県では2種の分布が重ならないのにトウカイが生えているようです。何処かから種が飛んできたんでしょうか
このバラバラな分布パターンについては、後でまた取り上げます
種子の休眠期間について
上のグラフは種子を撒いてからの日数と、発芽率との関係です。コモウセンは撒いてからすぐ発芽し、モウセンゴケは5ヶ月ほど休眠期間があるのが分かります。暖かいところに生えるコモウセンは種子の休眠の必要がないのですぐ発芽しますが、モウセンゴケの自生地では厳しい冬があるため、春が来てから発芽する仕組みになっているということですね。またモウセンゴケはコモウセンに比べて種子サイズが大きく、一度に作る種子の数も少ないことがわかっています。少数精鋭ですね
ではトウカイではどうかというと、
興味深いことに、種子の休眠期間は地域によってバラバラということがわかります。北上すると休眠期間も長くなる傾向があるようですが、同じ愛知県に位置する2地域(武豊と富貴)で休眠期間が異なるのは不思議です
開花時期について
次に3種の開花時期についてです
上の図は各月の開花率を示したグラフです。コモウセンは種子がすぐ発芽するため夏前に開花のピークを迎え、それ以降も冬が来るまで咲き続けることがわかります。一応ピークはあるけど条件が良ければいつでも咲いてるんですね。
対してモウセンゴケは夏の一番条件が良い時にまとめて咲いて、それ以降は開花しないことがわかります。寒冷な地域では繁殖に適した時期が短いため、だらだらと開花するより集中的に開花した方がお得なんでしょうか?寒いと虫も居なさそうですし
2種の間で開花時期や休眠期間が異なり、違った繁殖戦略をとっているのは面白いですね
そしてトウカイですが、コモウセンと同じく夏が終わった後も断続的に咲いてることがわかります。開花のピークはコモウセンと重なっているので、この2種が同じ場所に生えていた場合簡単に交雑が起こりそうです。
開花ピークが重なっていることは、葉の形がすごく似てることと合わせて、トウカイの種子親がコモウセンであることと関係しているんでしょうか?謎です
共存の条件
コモウセンとモウセンゴケでは開花時期や好む水分環境が異なるため、分布が重なる場所でも滅多に交雑は起こらないと考えられます。でもごくまれに両種の交雑、倍数化が起こりトウカイコモウセンゴケが誕生することがあります。それでは、この種はどうやって親種と共存しているのでしょうか?
トウカイが親種と共存できている仕組みとしては、開花時期のズレと自家和合性が有力候補のようです。例えばモウセンゴケとトウカイは開花時期が違うのでお互い干渉せずに繁殖できます。またトウカイは親種と同様に自家和合性を持っているので、周りに仲間がいなくても単独で数を殖やすことができます。この能力によって、倍数化で生まれたトウカイ1個体からどんどん勢力を拡大していったと思われます。
前述したようにコモウセンとトウカイの開花ピークは一致しているので、もしこの2種が同じ場所に生えていたら、お互いに繁殖の邪魔をしあってしまい、良いことはあまりなさそうです。今回紹介した論文の著者である中村さんの観察によると、トウカイとコモウセンが共存するパターンよりも、トウカイとモウセンゴケが共存するパターンの方が圧倒的に多かったらしい(引用2)のですが、みなさんの観察ではどうでしょうか?僕は去年コモウセンとモウセンゴケが共存している地域に行きましたが、トウカイの見分け方がよくわからず、結局トウカイがいたのかはわかりませんでした()
トウカイコモウセンゴケは単一起源か?
ここまでトウカイコモウセンの分布や生態について色々と紹介し、倍数化によって生まれた1個体が自家受粉によって数を殖やしてきたと書きましたが、本当にそうでしょうか?
種子の休眠期間のグラフを見て分かる通り、トウカイの種子休眠期間は地域によってバラバラであり、その分布も連続的ではなく飛び飛びになっていることがわかります。
以上のことから、トウカイは1度の交雑で生まれたのではなく、複数回の交雑によって各地域ごとに独立に生まれたとする説が有力となっています(引用1)。実際高知県のトウカイと静岡県のトウカイは別個体のコモウセンを種子親に持つことが遺伝型の解析からわかっており、トウカイは少なくとも2回独立に起源していると考えられています。他の地域でも独立してトウカイが生まれている可能性は大いにあるので、気になりますね
栽培家の間では雑草扱いされることも多いトウカイコモウセンゴケですが、調べてみると実は地域ごとに固有のバックグラウンドを持っている可能性が高いことがわかりました。今後このような個体の自生地が開発などによって消えてしまうこともあるでしょう。系統保存を兼ねて、産地情報付きのトウカイをコレクションするのも楽しそうです
参考文献
1. Hiroshi Hayakawa et al. 2012. New records of Drosera tokaiensis subsp. hyugaensis (Droseraceae) from Kochi Prefecture, Japan. Botany 90(8): 763-769.
2. Mariko nakano et al. 2004. Life history traits and coexistence of an amphidiploid, Drosera tokaiensis, and its parental species, D. rotundifolia and D. spatulata (Droseraceae). Plant Species Biology 19: 59–72
https://esj-journals.onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/j.1442-1984.2004.00102.x
N.burkei
こんばんは くりたです
今回はburkeiの栽培記録です。そういえば久しぶりにブログ更新する気がしますね。前の更新はいつだったかな、、
ちょっと見てみよう、、
ん、、、?
6月11日?!?!
思ったより日数が経ってますね、、262日も、、、
ブログは一度書き出すと楽しいんですが、書くまでがメンドクサイんですよね😅 記事に完成度を求めすぎるといつまで経っても更新しないので、あまり気負わず気楽にやっていこうと思います!😌
さて、本題に戻りまして今回はN.burkeiの栽培記録です!昔はほどんど流通がなかったようですが、今ではクローン苗を安価で入手できます。良い時代ですねほんと、、
BEより輸入してから1年くらい経ってますが、果たしてどれだけ成長したのか、、
輸入したとき
そして現在
ゆっくりとですが大きくなってくれているようです🌿
まだ小さいながら、毒々しい色合いと特徴的なフォルムはまさにburkeiといった感じで良いですね!
本種の管理ですが、夏の間は屋外の半日陰、秋口からは温室に入れ無遮光で通気よく管理しています。ベントリ系は空気の停滞を嫌うとよく聞くので通気を確保するように注意していますが、今のところ調子は良さそうです。
また、ベントリ系は湿度が無いと袋をつけないという話がありますが、袋をつけるための条件として、日中に十分な光を浴びることが重要な気がします。我が家では冬の温室内ではファンを常に稼働させていて、加湿器等も使用していないため日中の湿度はかなり低くなっている筈ですが、問題なく袋をつけていました。(夕方にシャワーで水やりされるので夜間の湿度は少し上がりますが。)
性質は丈夫で、ventricosaと同じく夏は少し暑がりますが、秋口から冬にかけて爆発的に成長する傾向があるように思います。光が大好きなのですが、葉表面の温度が上がりすぎるのを嫌うようです。夏だと温度が高すぎるのか、やや生育は鈍るようです。
用土はスリット鉢に鹿沼中粒で植えているのですが、表面が乾いたら水をやるということはせず、テキトーにやってます。通気性重視の組み合わせなので、割と多めにやっても問題ないのかも知れませんね
ベントリと比べるとあまり注目されてないように感じる本種ですが、ひじょーに丈夫で成長も早く、袋も素晴らしい植物です!みなさんもぜひ育ててみてはいかがでしょうか?!
それではまたお会いしましょう!
N.vogelii
こんばんは くりたです
先日京都某所にオオサンショウオを見にいった際、一緒にいた先輩が『走るとハイになれる』的なことをいっていて、その言葉には妙な説得力があったわけで。
そこで早速、早起きしてランニングにいってきたのですが、リフレッシュになるしとても良い感じです。昼は暑くて活動できないので、朝にこういった時間が取れれば最高ですが、早起き習慣が続いた試しがありません。どうしよう。
され、今日の本題ですが、タイトルにある通りN.vogeliiについて書いていきます。とはいえ栽培してから3ヶ月しか経ってないので、栽培についてはまだ手探りの状態です😅 詳しい栽培情報を期待していた方には申し訳ないですが、代わりに本種の基本情報についてわかっていることを出来るだけ集めています。栽培以外の情報についてまとめた記事も少ないでしょうし、、
今回の記事の内容のほとんどはこの本を参照してます。
栽培品の状態
到着当時はやや過保護に育てていましたが、今は遮光50%ほどの屋外で放置してます。
ちなみに輸入後の管理についてはこの記事で書いてます。気になる人は是非ご覧ください。
用土は鹿沼の細粒を用い、水やりの頻度も表面が乾いたらすぐにやっていましたが、本種は着生種と言うこともあり、そろそろ用土は乾かし気味に管理しようかと思っているところです。こう言う系のネペンは土ではなく植物体を濡らした方が調子が良さそうなので、天井からミストを噴射させていい感じに管理する計画を推し進めております。
本種の魅力はなんといってもその細長いピッチャーにあります。ネペンの中で一番細長いんじゃないでしょうか。カラーリングにおいても、胴体は白〜緑と黒のコントラスト、ペリストームにワインレッドのストライプが入る個体があったりと面白いです。
アッパーピッチャーも素晴らしく、あの漏斗型のピッチャーを一度でいいから拝みたいと思ったことのない人はいないでしょう。
そんな魅力に溢れる本種ですが、最初に発見したのは日本人であると言うことをご存知でしょうか?
本種の記載
1961年にムル国立公園のアピ山で採取され、N.fuscaとされていた検体があったのですが、その8年後に、日本の植物学者である倉田重夫氏が、その検体が別種である可能性について言及したのが、この種の最初の記述とされています。氏は多くのネペンテスを命名した分類学者で、N.rhombicaulis, N.x kuchingensis, N.eymae, N.peltata, N.campanulataなどの名付け親なのです。すごいですよね!
正式に種として記述されたのは2002年のことで、オランダのライデン植物園でこの種を種子から育成したArt Vogel氏にちなんで命名されました。ちなみにこの種子はKelabit HIghlandsというところから採取されたらしいです。
系統関係
一番近縁な種はN.fuscaですが、N.maxima, N.stenophylla, N.platychila, N.molis, N.boschiana, N.eymae, N.klossii, N.chanianaなどとも近縁です。ここら辺の種は一括りに"N.maxima complex"と呼ばれるのですが、complexとは、いくつかの種が親戚関係みたいにある程度まとまって見られるときに用いられる用語です。属(genus)の下位分類ということでしょう。
fuscaとの違いはなんとなく雰囲気でわかると思いますが、あえて言うならフタの付け根に突起がないこと、フタの形が細くならないこと、ロワーピッチャーで翼が殆ど発達しないことなどが挙げられると思います。
分布域と生態
最初は北サラワクに固有と考えられていた本種ですが、今ではボルネオ島に広く分布しているというのが定説のようです。実際にサバ州や東カリマンタンなどで分布が確認されています。N.fuscaがボルネオ島の広域で見られることを考えると、その近縁種であり同じような標高帯に生育する本種も広域分布していてもおかしくありません。
しかし多くののハイランドネペンが限られた山にしか自生していないのに対し、N.fuscaやN.vogeliiがなぜここまで広域に分布しているのかは不思議です。もしかしたら今の山ができる遥か昔には低地の一面に分布していたのかもしれません。その後土地の隆起により各地で着生種としての性質を獲得していって今の姿になったのかもしれませんね。
BE3256についてですが、Northern Sarawak 1000-1500m由来の20クローンのことを指すようです。ちなみにBE3226ってのがあってHose Mountain原産の実生苗らしいですが、持ってる人いるんでしょうか?だいぶ珍しい個体だと思います。あと、ネペンのコードについてはこのサイトを参照してます。
さて、本種の生態ですが、1000-1500mの標高において、樹木に着生しているようです、面白いことに、ムル山では1200mから下はN.fusca, 1200-1500mはN.vogelii, 1500mからはN.molisというふうに、3種の着生種が綺麗に棲み分けていたそうです。栽培下においては、N.fuscaより少し暑がり、土壌の通気を好むといった感じでしょうか。これから確かめてみることにします。
また、A. Schuiteman & E.F. de Vogelが発表した記載論文をみると、標本を採取した自生地Kelabit Highlandsでは、海抜1000m地点で岩石の上の苔に張り付いていたと記述されていますが、幼苗しかなかったことから、本来は着生種なのではないかと著者らは考えていたそうです。これは正しかったことが証明されましたね。
同じ地点にはN.stenophyllaやN.veitchiiが自生していたとのことですが、交雑の痕跡は見られなかったそうです。
ちなみにこの辺りの山はkelangas forestと呼ばれていて(kelangasとはイバン語で作物の育たない土地の意味)、ケイ素を多く含む母岩が風化した、酸性の砂質土壌が地表を覆い、加えて窒素が不足しているため、変わった低木や着生植物が多く生える熱帯林を形成しています。例を挙げると、モクマオウの仲間であるGymnostoma属は菌根菌と共生することにより土壌中からではなく空気中から窒素を奪い取るように進化しましたし、アリ植物のMyrmecodia属などはアリの排泄物から窒素を獲得しています。そしてもちろん、ネペンテスやドロセラ 、ウトリキュラリアなどの食虫植物もこの潅木林の住人(と言うか主役)です。土の状態によって植生も大きく変わるのは面白いですね!
以上、N.vogeliiについてでした。
アッパーピッチャー早く見たいです。
参考文献・サイト
Anthea Phillipps, Anthony Lamb, Ch'en C. Lee (2008) "PITCHER PLANTS OF BORNEO second edition"
A. Schuiteman & E.F. de Vogel (2002) "NepenthesVogelii (Nepenthaceae): a new species from Sarawak" BLUMEA 47 537-540
『kelangas forest』https://en.wikipedia.org/wiki/Kerangas_forest (2020 6/9閲覧)
ネペンテスの馴化について
こんばんは。 くりたです
授業が始まってバタバタしており、気づいたら前回から1ヶ月以上も経っていました
自分は課題を徹底的に後回しにするタイプの人間で、今もレポートの提出期限が迫り来る中こうしてブログを書いているわけですが、このほうが出来が良いレポートが書けると思うのは自分だけ?
そういえば昔、背水の陣という戦術があったのを思い出しました。
さて、今日の本題ですが、3月にBEより輸入したネペンの馴化が終わったので、到着から馴化までの管理をざっくりと紹介しようかと思います。
3月4日 山田農園より代行輸入して頂いた植物が到着 いつもお世話になっており
ますm(_ _)m
到着したのは以下の5種
- N.petiolata BE3135
- N.eymae BE3736
- N.ventricosa madja-as BE3278
- N.burkei BE3254
- N.vogelii BE3256
burkeiとeymaeはMサイズ、それ以外はSサイズです。
パックから取り出して写真を撮っています。苗の状態ですが、葉の枯れもなく、低温で弱った感じも全くありませんでした。とても良い状態だと思います。
しかし根っこは太いの以外は全て千切れていて、長旅の影響で株の免疫力も落ちています。このまま通常の管理をすると苗がしなびてしまったり、病気に犯されるリスクがあるため、1ヶ月程度特別な管理をします。
具体的には、
- 葉からの蒸散量を減らすこと
- 根部、加えて葉への十分な水分供給
- 病気の対策
が大切です。1ですが、輸入直後の苗は根の機能が弱く、水を吸い上げる力が弱いです。そのため、なるべく水分のロスは避けたいところです。半日陰に置き、空中湿度を高く保つことで、葉からの蒸散量を減らすことができます。同じ理由で2も大切です。せっかく伸びてきた根が乾燥で枯れてしまったら大変なので、乾燥しやすい素焼き鉢などは使わないほうが無難だと思います。
あと、ここで葉にも水をかけてあげるようにすると良いです。経験上ネペンは葉やピッチャーからも水分を吸収していると考えられるので、根っこが弱っている時こそ、ミストなどで葉にたくさん水をあげると植物の負担も少ないでしょう。
しかし、常に濡れたままで空気が停滞していると、カビや病気の原因になってしまいます。
そこで、3の病気への対策ですが、まず通気を確保するのが手っ取り早くて良いと思います。あとは清潔な用土に植え、薬で殺菌すれば大丈夫でしょう。
この3点を踏まえた具体的な管理ですが、
うちでは普通のスリット鉢に鹿沼土の細粒で植え付け、トップジンMなどで殺菌した後、温室の下段において腰水で管理してます。(細粒を使うと根っこへの密着度が上がり調子が良いと山田さんがおっしゃっていたような気がするので、うちでは挿し木や順化の時に使ってます。)
また、通気を確保するために特に密閉、加湿はしていません。(流石に、寒い時に温室を解放するわけにはいきませんが、、)この時期なら昼は解放して、夜にビニールのカバーを閉める感じです。種類にもよりますが、大抵の低ー中地性ネペンは湿度に対しての耐性があるので、そこまで加湿に神経質になる必要もないかなと思います。
ただ、温室の下段は半日陰になっていて、シダなどを入れてることもあり空中湿度は高めです。夕方にはミストがかかり、株がびしょびしょになりますが、上段のファンによって最低限の通気は確保されているので、病気のリスクも減らせます。
こうした管理を1ヶ月くらい続けていると、順調なネペンは葉を展開してくるので、そのタイミングで徐々に通常の管理に近づけていきます。このとき元からついていた袋はほとんど枯れるんですが、これは調子が悪いのではなく、新しい環境に対応していないために枯れてるだけかど思います。次から展開する葉にワックスがかかったような光沢があればちゃんと新しい環境に馴染んでる証拠なので、順化はほとんど終了です。
現在の姿
こうしてみると結構赤くなってますね笑
以上、ネペンの輸入株についての記事でした。
輸入後の管理など、参考にしていてだけたら幸いです。今回はうまく順化できましたが、今後の輸入で失敗したらまた記事にしようと思います😅
この5株については個別に栽培記録を書くので、詳しい種の情報や栽培情報などはそちらを参考にしてもらえたらと思います。
〜〜〜みんなのうたのコーナー〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『Pearl of the Quarter』ーCountdown to Ecstacy Steely Dan
おまけ
このコーナーは筆者が好きな曲を紹介するコーナーで、楽しいコーナーです(自分が)。
今回は『Pearl of the Quarter』。
1973年にSteely Danによって出された2ndアルバムCountdown to Ecstacyに収録されています。 このアルバムは珠玉ぞろいですが中でもお気に入りの曲がこの曲『Pearl of the Quarter』で、もう5000回くらいは聴きました(嘘) みんなも聴きましょう。 当時の精鋭たちをスタジオに集めて何百回もリテイクを繰り返していたとの噂ですが、ギタリストやベーシストの名前を知らず、実際のメンバーを見てもピンときませんでした(笑) 要するに彼らは完璧主義だったってことです(たぶん)。
内容は娼婦ルイーズとの恋に落ちた男の独白ですが、彼女の素性が直接的に示されることはありません。むしろ最初はニューオリンズの海辺で出会う普通の男女の歌に聞こえるのですが、歌詞中の地名や単語のダブルミーニングにより彼女が娼婦であることがそれとなく示されてゆきます。こういう遊びは掛詞を用いた日本の和歌などにも共通して見られるのが面白いですね。
ひねくれた歌詞の多いダンの曲ですが、この曲は珍しく作詩者の素直な気持ちが垣間見えるので特に好きです。昔の記憶を巡るうちに思うことでもあったのでしょうか。
the quarter: ルイジアナ州の地名French Quarterのこと。フランス植民地時代の名残が見られる場所で、ここの娼婦をテーマにした映画がある。
"voulez vous": ”Voulez-vous coucher avec moi ?”の省略と思われる
red beans and rice: ルイジアナ州の郷土料理(豆とお肉などを入れたリゾット)
miracle mile: 表参道のようなきらびやかな通りのことをこういうらしい。友達のパパが教えてくれた。
Cajun: フランスの
million dollar words: お世辞 と 実際に彼女にあって話すのに大金をはたいた という意味のダブルミーニング
プルプレアの葉は切らない方がいい?
こんばんは くりたです。
本格的に暖かくなってきました。
最近はハナミズキやツツジが咲いているのをよく見かけます。少し早めですが藤の花も咲いてました。
相変わらず自粛生活が続いていますが、このブログの読者である皆さんの多くがそうであるように、庭の草をいじっていると日が暮れているような自分にとってはあまり関係がないのかもしれません。この状況を悲観的に捉えるよりも、ポジティブに捉えて何かできないかと考える方がよっぽど生産的ですし。しかし、ラーメンを食べに行けないという事実に対しては悲観的にならざるを得ません。非常に困りました。
そんな話は置いといて本日の内容ですが、サラセニア・プルプレアについてです。
以前、サークルの先輩が会誌に『プルプレアは葉の窒素を再利用している』みたいなことを書いていたのを思い出したのですが、これは栽培のヒントになる!と思い、元になった研究を探したところ発見したので紹介します。言われてみれば、プルプレアって冬の間も結構ピッチャー残ってませんか??
ざっと調べた限り他のサラセニアにも当てはまるかは不明でしたが、プルプレアに関しては前年に使用した窒素をその次の年の成長にも使っていることがわかったので、みなさん冬の植え替えの際は生きた葉っぱを切らないようにしましょう。切ってしまうとかなり大きなダメージになりそうです()
besjournals.onlinelibrary.wiley.com
(リンク読み込めなかったらごめんなさい)
上がその論文で、"Nitrogen cycling dynamics in the carnivorous northern pitcher plant, Sarracenia purpurea"というタイトルがついています。日本語に訳すと『アメリカ北部に自生するSarracenia purpureaの植物体内および成長段階を通した窒素循環』といったところでしょうか。Butler氏とEllison氏が2007年に出した論文です。
この話の前提として、窒素が植物の成長に非常に影響力を与えているということがあります。窒素は植物体が光エネルギーを用いて酵素(タンパク質)を合成するのなどに使われていますが、この酵素というものは光合成に必要な葉緑体にもたくさん入っています。
その結果、窒素が足りないと光合成がうまくいかず、植物は成長できなくなってしまいます。窒素は植物の体を作るのに必要不可欠ということですね。
以上のことから、植物は土壌などから得た貴重な窒素をできるだけ効率よく利用しようとするはずです。大半の植物の葉が平たく薄っぺらいのも、最小のコスト(葉を作るのに必要な繊維や葉緑体、さらにはそれらを構成する窒素)で最大の利益(光合成により得られた炭水化物など)を得るためだと考えられます。
以上のように植物の成長に欠かせない窒素ですが、プルプレアは前年の葉に蓄えられた窒素を翌年も再利用することで、割と効率よく窒素を利用しているらしいというのが今回紹介する内容です。
詳しい実験方法や理論についてはスルーしますが、簡単に説明すると、様々な条件下で窒素の同素体(15N)が入った肥料を植物体に与え、成長段階ごとに15Nを追跡することで、根やピッチャーからどの割合で窒素が吸収されるのか、また窒素が植物体の中でどのように動いているのかを確かめたとのことです。
この論文からわかることをまとめるとこんな感じです。
- プルプレアはピッチャーに溜まった雨水、昆虫、ピートなどの土壌、そして植物体に蓄積された予備窒素などから窒素を得ている。
- プルプレアは消化酵素を持たず、ピッチャー内の微生物が獲物を分解することで栄養を得ている。また、獲物が少ないときは雨水から窒素を得ることもある。
- 一年を通して根から吸収される窒素よりもピッチャーから吸収される窒素の方がはるかに多い。
- ピッチャーに蓄積された窒素は翌年の成長に使い回され、翌年の成長の初期から中期段階において最も使用される。
- 窒素を使い回すために、ピッチャーが吸収した窒素は順次新しいピッチャーへと送られていく。最終的には休眠期に残る数枚に凝縮される。
色々と栽培のヒントになりそうなことがありますが、今回はプルプレアが前年の葉に蓄えられた窒素を翌年も再利用していることに注目して解説していきます。
このグラフは論文より引用したもので、Harvest1は3番目のピッチャーが完成した時、Harvest2、3はそれぞれ4、5番目のピッチャーが完成した時です。
縦軸は、最初にできたピッチャーが吸収した窒素が、各ピッチャーの組織内にどれだけ存在するかを示した数値です。
結論からいうと、このグラフからはプルプレアが最初のピッチャーから吸収した窒素を他のピッチャーへと分散させ、翌年に再利用しようとしていることがわかります。
以下はざっくりとした解説です。読み飛ばしてもらっても全然いいです。
グラフより、最初にできたピッチャーが吸収した窒素は、2番目のピッチャーにはいかず、より新しいピッチャーを作るために利用されていることがわかります。また、Harvest2と3の間で最初のピッチャーにおける窒素濃度が下がっていることから、次のシーズンに向けて4、5番目のピッチャーへと窒素が移動していることが予想されます。
もしHarvest4(休眠期)に同じグラフを作ったとしたら、Pitcher1,2の窒素濃度はかなり少なくなっていて、成長期の後半にできたピッチャーに窒素が集中しているはずです。
さらに、これは最初のピッチャーで吸収された窒素に限ったデータであり、2番目以降のピッチャーも同じく4、5番目のピッチャーに窒素を受け渡すと仮定すると、かなりの量の窒素が再利用されることになります。
このグラフを見て、『2番目にできたピッチャーはどこから窒素をもらってるんだ?』と思った方もいるかもしれません。実は最初のピッチャーと同じく、去年の葉っぱから窒素を貰って成長しています。
この図はプルプレアの成長段階に合わせて、前年の窒素がどのように分配されるのかをわかりやすく示したものです。この図でプルプレアは左から右へ成長してますが、白い部分が去年の葉っぱから貰った窒素でできている割合です。こうみると3番目までのピッチャーはほどんど去年の備蓄からできていることがわかりますね。冬の植え替えの際には生きた葉っぱを切らないようにしましょう!(去年切りかけた)
以上、プルプレアの生態について調べた研究の紹介でした。他のサラセニアも同じような窒素利用をしているのかはまだ詳しく調べてないのでわかりませんが、プルプレアがサラセニアの中でも比較的北部に分布し、栄養源となる昆虫などが少ないために、このような倹約術を身につけたのかもしれませんね。(あくまで妄想に過ぎませんが、、)
また何かわかり次第追記する予定です。本日も最後までお読みくださりありがとうございました!
それではまた次回お会いしましょう!
ネペンテスの栽培:大きな袋をつける方法
どうもみなさんこんばんは。くりたです。ブログを書こうと思ってはてなブログに登録したのはいいんですが、4ヶ月も放置していました。ここ数週間、自粛生活で暇だったのですが、これはブログを始める良い機会ということで急遽、思いつき、書き始めることにしました。暇なときに書いていくので、また近日中に更新できる予定です。
さて、今回のテーマですが、やっぱりネペンの記事がいいだろうということで、ネペンテスの栽培、特に、大きな袋をつけやすくする環境について書いて行こうと思います。なお、今回紹介するポイントは底〜中高地性ネペンテスについてのものです。高地性ネペンや特殊な環境に自生するネペンについては当てはまらないことも多いと思います。
結論から言うと、大きな袋をつけるには以下の点が大切だと考えています。
- 用土の乾湿の差をつけること(表面が乾くまで放置し、しなびてきたら夕方に水をやる)
- 地上部、地中部の通気を確保すること
- 日光に十分当てること
これは実際に論文を見て確かめたわけではないんですが、多くの栽培経験者の方々が言う通り、ネペンの袋は貯水機能も兼ね備えていて、それによって劣悪な土壌環境においても問題なく成長できると考えています。自生地の個体をみると、山を削った道路沿いの斜面に生えていることが多いのですが、こういった斜面は砂質またはゴチゴチに固まったラテライト層であることが多く、とても保水性や保肥性が高いとは考えられません。
上の画像はTrusMadi山標高1000mくらいの地点のものですが、日中は陽差しが強烈な割に常に風が吹いていて涼しく、斜面はかなり乾燥していました。実際にしなびている個体も多かったです。しかし夕方になるとスコールが降り注ぎ、植物体はその時に水分を吸収するのでしょう。(この時、根からだけなく葉からも水分や養分を吸収していると思うのですが、、)
しかし、数日間雨が降らなかった場合、斜面に生えているネペンは大変です。そこで袋に貯めていた雨水を利用しているのではないか、ということです。さらに、乾燥が激しく、厳しい環境であればあるほど、ネペンテスはより大きな袋を作り、雨水をたくさん貯めようとするはずです。こういったネペンテスの習性を栽培に応用したのが、今回の内容であり、自分が師匠と仰ぐ兵庫FCのD氏が栽培法として確立されているものでもあります。
今紹介した自生地の環境を踏まえて、もう一度ポイントを確認していきましょう。
- 用土の乾湿の差をつけること(表面が乾くまで放置し、しなびてきたら夕方に水をやる)
- 地上部、地中部の通気を確保すること
- 日光に十分当てること
まず第一に、用土の乾湿の差をつけることが大切です。先ほども説明したように、根からの水分供給に頼れなくすることで、ネペンは大きな袋をつけようとするはずだからです。
しかし、いきなり乾燥させたのでは枯れてしまうので、徐々に水やりの間隔をあけて慣らしていくのが良いと思います。元の環境でつけた袋は枯れますが、次の葉からはより丈夫な葉が出るはずです。目安として、葉の表面にワックスがかかったような光沢が出てくればある程度の乾燥耐性はついています。
また、水をあげる時間帯は夕方がいいように感じます。これに関しては、
- 鉢内の温度を下げることで植物の代謝量を下げ、呼吸による消耗を防ぐため
- 昼の高温時に水をやると根の周りの水がお湯になってしまい、植物がダメージを受けてしまうため
などの理由があります。
次に地上部、地下部の通気ですが、これも用土が乾きやすくなるための条件です。加えて、通気が良くなることで植物体は蒸散量を抑えようとし、表面をワックスでコーティングするので、乾燥耐性もつきやすくなります。さらに植物体が風で揺れることで茎が太くなり、節目が詰まった、ガッチリとした株にすることができます。
最後に十分な日光に当てることが大切ですが、これは袋をつけるための栄養をつけてもらうためです。当然のことながら、ネペンが袋をつけるためには、葉の成長に必要な栄養分の他に、追加の栄養分が必要です。ネペンの葉はこの追加の栄養分も生産しないといけないため、他の熱帯植物と比べて多くの光量を必要とします。ネペンは鬱蒼としたジャングルに生えているイメージを持っている方が多いですが、実際に自生地に行くと、(もちろん種類にもよりますが)工事で切り崩された崖や荒地に生えています。
また、十分な日光をを当てることで、光合成に必要な葉の面積が減り、葉に対して大きな袋がつきやすいです。これも少ない光量から徐々に慣らしていくのが良いと思います。先ほども述べたとおりネペンテスはもともと日光が大好きな植物で、しかも環境への適応量が高いです。雑草的な強さを持っていると言うことですね(笑)従って、たとえヒョロヒョロの株であったとしても、厳しい環境に慣らていくことで丈夫な株に育て上げることができると思います。
以上、駆け足でポイントを解説してみました。かなりざっくりとした内容ですが、自分が使っている鉢や用土、機材などの具体的な内容については今後書いていけたらと思います。最後まで読んでくださりありがとうございました。
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それでは次の記事でお会いしましょう〜
はじめまして
はじめまして くりたです
植物の話題や好きな音楽、読んだ本のことなどをつらつらと書く予定です。定期的にやっていきますが、まだどうするか決めてないのです。