プルプレアの葉は切らない方がいい?

こんばんは くりたです。

 

本格的に暖かくなってきました。

最近はハナミズキツツジが咲いているのをよく見かけます。少し早めですが藤の花も咲いてました。

相変わらず自粛生活が続いていますが、このブログの読者である皆さんの多くがそうであるように、庭の草をいじっていると日が暮れているような自分にとってはあまり関係がないのかもしれません。この状況を悲観的に捉えるよりも、ポジティブに捉えて何かできないかと考える方がよっぽど生産的ですし。しかし、ラーメンを食べに行けないという事実に対しては悲観的にならざるを得ません。非常に困りました。

 

 

そんな話は置いといて本日の内容ですが、サラセニア・プルプレアについてです。

以前、サークルの先輩が会誌に『プルプレアは葉の窒素を再利用している』みたいなことを書いていたのを思い出したのですが、これは栽培のヒントになる!と思い、元になった研究を探したところ発見したので紹介します。言われてみれば、プルプレアって冬の間も結構ピッチャー残ってませんか??

 

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プルプレア系交配種の『立浪』

 

ざっと調べた限り他のサラセニアにも当てはまるかは不明でしたが、プルプレアに関しては前年に使用した窒素をその次の年の成長にも使っていることがわかったので、みなさん冬の植え替えの際は生きた葉っぱを切らないようにしましょう。切ってしまうとかなり大きなダメージになりそうです()

besjournals.onlinelibrary.wiley.com

(リンク読み込めなかったらごめんなさい)

上がその論文で、"Nitrogen cycling dynamics in the carnivorous northern pitcher plant, Sarracenia purpurea"というタイトルがついています。日本語に訳すと『アメリカ北部に自生するSarracenia purpureaの植物体内および成長段階を通した窒素循環』といったところでしょうか。Butler氏とEllison氏が2007年に出した論文です。

この話の前提として、窒素が植物の成長に非常に影響力を与えているということがあります。窒素は植物体が光エネルギーを用いて酵素(タンパク質)を合成するのなどに使われていますが、この酵素というものは光合成に必要な葉緑体にもたくさん入っています。

その結果、窒素が足りないと光合成がうまくいかず、植物は成長できなくなってしまいます。窒素は植物の体を作るのに必要不可欠ということですね。

以上のことから、植物は土壌などから得た貴重な窒素をできるだけ効率よく利用しようとするはずです。大半の植物の葉が平たく薄っぺらいのも、最小のコスト(葉を作るのに必要な繊維や葉緑体、さらにはそれらを構成する窒素)で最大の利益(光合成により得られた炭水化物など)を得るためだと考えられます。

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葉っぱ

 

以上のように植物の成長に欠かせない窒素ですが、プルプレアは前年の葉に蓄えられた窒素を翌年も再利用することで、割と効率よく窒素を利用しているらしいというのが今回紹介する内容です。

 

詳しい実験方法や理論についてはスルーしますが、簡単に説明すると、様々な条件下で窒素の同素体(15N)が入った肥料を植物体に与え、成長段階ごとに15Nを追跡することで、根やピッチャーからどの割合で窒素が吸収されるのか、また窒素が植物体の中でどのように動いているのかを確かめたとのことです。

この論文からわかることをまとめるとこんな感じです。

  • プルプレアはピッチャーに溜まった雨水、昆虫、ピートなどの土壌、そして植物体に蓄積された予備窒素などから窒素を得ている。
  • プルプレアは消化酵素を持たず、ピッチャー内の微生物が獲物を分解することで栄養を得ている。また、獲物が少ないときは雨水から窒素を得ることもある。
  •  一年を通して根から吸収される窒素よりもピッチャーから吸収される窒素の方がはるかに多い。
  • ピッチャーに蓄積された窒素は翌年の成長に使い回され、翌年の成長の初期から中期段階において最も使用される。
  •  窒素を使い回すために、ピッチャーが吸収した窒素は順次新しいピッチャーへと送られていく。最終的には休眠期に残る数枚に凝縮される。

色々と栽培のヒントになりそうなことがありますが、今回はプルプレアが前年の葉に蓄えられた窒素を翌年も再利用していることに注目して解説していきます。

 

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最初のピッチャーが吸収した窒素が他のピッチャーへ分散していく図

このグラフは論文より引用したもので、Harvest1は3番目のピッチャーが完成した時、Harvest2、3はそれぞれ4、5番目のピッチャーが完成した時です。

縦軸は、最初にできたピッチャーが吸収した窒素が、各ピッチャーの組織内にどれだけ存在するかを示した数値です。

結論からいうと、このグラフからはプルプレアが最初のピッチャーから吸収した窒素を他のピッチャーへと分散させ、翌年に再利用しようとしていることがわかります。

 

以下はざっくりとした解説です。読み飛ばしてもらっても全然いいです。

グラフより、最初にできたピッチャーが吸収した窒素は、2番目のピッチャーにはいかず、より新しいピッチャーを作るために利用されていることがわかります。また、Harvest2と3の間で最初のピッチャーにおける窒素濃度が下がっていることから、次のシーズンに向けて4、5番目のピッチャーへと窒素が移動していることが予想されます。

もしHarvest4(休眠期)に同じグラフを作ったとしたら、Pitcher1,2の窒素濃度はかなり少なくなっていて、成長期の後半にできたピッチャーに窒素が集中しているはずです。

さらに、これは最初のピッチャーで吸収された窒素に限ったデータであり、2番目以降のピッチャーも同じく4、5番目のピッチャーに窒素を受け渡すと仮定すると、かなりの量の窒素が再利用されることになります。

 

このグラフを見て、『2番目にできたピッチャーはどこから窒素をもらってるんだ?』と思った方もいるかもしれません。実は最初のピッチャーと同じく、去年の葉っぱから窒素を貰って成長しています。

 

 

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論文より引用

 

この図はプルプレアの成長段階に合わせて、前年の窒素がどのように分配されるのかをわかりやすく示したものです。この図でプルプレアは左から右へ成長してますが、白い部分が去年の葉っぱから貰った窒素でできている割合です。こうみると3番目までのピッチャーはほどんど去年の備蓄からできていることがわかりますね。冬の植え替えの際には生きた葉っぱを切らないようにしましょう!(去年切りかけた)

 

以上、プルプレアの生態について調べた研究の紹介でした。他のサラセニアも同じような窒素利用をしているのかはまだ詳しく調べてないのでわかりませんが、プルプレアがサラセニアの中でも比較的北部に分布し、栄養源となる昆虫などが少ないために、このような倹約術を身につけたのかもしれませんね。(あくまで妄想に過ぎませんが、、)

 

また何かわかり次第追記する予定です。本日も最後までお読みくださりありがとうございました! 

 

それではまた次回お会いしましょう!