N.vogelii

こんばんは くりたです

 

先日京都某所にオオサンショウオを見にいった際、一緒にいた先輩が『走るとハイになれる』的なことをいっていて、その言葉には妙な説得力があったわけで。

そこで早速、早起きしてランニングにいってきたのですが、リフレッシュになるしとても良い感じです。昼は暑くて活動できないので、朝にこういった時間が取れれば最高ですが、早起き習慣が続いた試しがありません。どうしよう。

 

 

され、今日の本題ですが、タイトルにある通りN.vogeliiについて書いていきます。とはいえ栽培してから3ヶ月しか経ってないので、栽培についてはまだ手探りの状態です😅 詳しい栽培情報を期待していた方には申し訳ないですが、代わりに本種の基本情報についてわかっていることを出来るだけ集めています。栽培以外の情報についてまとめた記事も少ないでしょうし、、

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今回の記事の内容のほとんどはこの本を参照してます。

 

栽培品の状態

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N.vogelii BE3256 到着時の状態

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2ヶ月半後 

到着当時はやや過保護に育てていましたが、今は遮光50%ほどの屋外で放置してます。

ちなみに輸入後の管理についてはこの記事で書いてます。気になる人は是非ご覧ください。

kuritainfo.hatenablog.com

用土は鹿沼の細粒を用い、水やりの頻度も表面が乾いたらすぐにやっていましたが、本種は着生種と言うこともあり、そろそろ用土は乾かし気味に管理しようかと思っているところです。こう言う系のネペンは土ではなく植物体を濡らした方が調子が良さそうなので、天井からミストを噴射させていい感じに管理する計画を推し進めております。

 

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アッパーピッチャー redleafexoticsより

 

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ロワーピッチャー redlowiiより

本種の魅力はなんといってもその細長いピッチャーにあります。ネペンの中で一番細長いんじゃないでしょうか。カラーリングにおいても、胴体は白〜緑と黒のコントラスト、ペリストームにワインレッドのストライプが入る個体があったりと面白いです。

アッパーピッチャーも素晴らしく、あの漏斗型のピッチャーを一度でいいから拝みたいと思ったことのない人はいないでしょう。

 

 

そんな魅力に溢れる本種ですが、最初に発見したのは日本人であると言うことをご存知でしょうか?

 

本種の記載

1961年にムル国立公園のアピ山で採取され、N.fuscaとされていた検体があったのですが、その8年後に、日本の植物学者である倉田重夫氏が、その検体が別種である可能性について言及したのが、この種の最初の記述とされています。氏は多くのネペンテスを命名した分類学者で、N.rhombicaulis, N.x kuchingensis, N.eymae, N.peltata, N.campanulataなどの名付け親なのです。すごいですよね!

正式に種として記述されたのは2002年のことで、オランダのライデン植物園でこの種を種子から育成したArt Vogel氏にちなんで命名されました。ちなみにこの種子はKelabit HIghlandsというところから採取されたらしいです。

 

系統関係

一番近縁な種はN.fuscaですが、N.maxima, N.stenophylla, N.platychila, N.molis, N.boschiana, N.eymae, N.klossii, N.chanianaなどとも近縁です。ここら辺の種は一括りに"N.maxima complex"と呼ばれるのですが、complexとは、いくつかの種が親戚関係みたいにある程度まとまって見られるときに用いられる用語です。属(genus)の下位分類ということでしょう。

fuscaとの違いはなんとなく雰囲気でわかると思いますが、あえて言うならフタの付け根に突起がないこと、フタの形が細くならないこと、ロワーピッチャーで翼が殆ど発達しないことなどが挙げられると思います。

 

 

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N.fusca wikipediaより

 

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N.vogeliiのアッパー wikipediaより

 

 

分布域と生態

最初は北サラワクに固有と考えられていた本種ですが、今ではボルネオ島に広く分布しているというのが定説のようです。実際にサバ州や東カリマンタンなどで分布が確認されています。N.fuscaがボルネオ島の広域で見られることを考えると、その近縁種であり同じような標高帯に生育する本種も広域分布していてもおかしくありません。

しかし多くののハイランドネペンが限られた山にしか自生していないのに対し、N.fuscaやN.vogeliiがなぜここまで広域に分布しているのかは不思議です。もしかしたら今の山ができる遥か昔には低地の一面に分布していたのかもしれません。その後土地の隆起により各地で着生種としての性質を獲得していって今の姿になったのかもしれませんね。

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いくつかの分布を調べてみましたが、割と広範囲に生えてそうです

 

BE3256についてですが、Northern Sarawak 1000-1500m由来の20クローンのことを指すようです。ちなみにBE3226ってのがあってHose Mountain原産の実生苗らしいですが、持ってる人いるんでしょうか?だいぶ珍しい個体だと思います。あと、ネペンのコードについてはこのサイトを参照してます。

www.marcellocatalano.com

 

 

さて、本種の生態ですが、1000-1500mの標高において、樹木に着生しているようです、面白いことに、ムル山では1200mから下はN.fusca, 1200-1500mはN.vogelii, 1500mからはN.molisというふうに、3種の着生種が綺麗に棲み分けていたそうです。栽培下においては、N.fuscaより少し暑がり、土壌の通気を好むといった感じでしょうか。これから確かめてみることにします。

また、A. Schuiteman & E.F. de Vogelが発表した記載論文をみると、標本を採取した自生地Kelabit Highlandsでは、海抜1000m地点で岩石の上の苔に張り付いていたと記述されていますが、幼苗しかなかったことから、本来は着生種なのではないかと著者らは考えていたそうです。これは正しかったことが証明されましたね。

同じ地点にはN.stenophyllaやN.veitchiiが自生していたとのことですが、交雑の痕跡は見られなかったそうです。

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論文より引用

ちなみにこの辺りの山はkelangas forestと呼ばれていて(kelangasとはイバン語で作物の育たない土地の意味)、ケイ素を多く含む母岩が風化した、酸性の砂質土壌が地表を覆い、加えて窒素が不足しているため、変わった低木や着生植物が多く生える熱帯林を形成しています。例を挙げると、モクマオウの仲間であるGymnostoma属は菌根菌と共生することにより土壌中からではなく空気中から窒素を奪い取るように進化しましたし、アリ植物のMyrmecodia属などはアリの排泄物から窒素を獲得しています。そしてもちろん、ネペンテスやドロセラ 、ウトリキュラリアなどの食虫植物もこの潅木林の住人(と言うか主役)です。土の状態によって植生も大きく変わるのは面白いですね!

 

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Gymnostoma poissonianum wikipediaより


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Bako National Park wikipediaより

以上、N.vogeliiについてでした。

アッパーピッチャー早く見たいです。

 

 

参考文献・サイト

Anthea Phillipps, Anthony Lamb, Ch'en C. Lee (2008) "PITCHER PLANTS OF BORNEO second edition"

A. Schuiteman & E.F. de Vogel (2002) "NepenthesVogelii (Nepenthaceae): a new species from Sarawak" BLUMEA 47  537-540

『kelangas forest』https://en.wikipedia.org/wiki/Kerangas_forest (2020 6/9閲覧)